支払しはらいを促うながしてきたのは、AIでした。

個人こじん情報じょうほうを盗ぬすみ取とるフィッシングサイトや安やすく商品しょうひんを買かえると見みせかけてお金おかねをだましとる偽にせのショッピングサイトなど、さまざまな詐欺さぎサイトが登場とうじょうしています。

こうした中なか、AIのチャットサービスを悪用あくようした偽にせのショッピングサイトが相次あいついで見みつかりました。最新さいしんの“AI詐欺さぎ”の実態じったいを追おいました。

（デジタルでだまされない取材しゅざい班はん /記者きしゃ 絹川きぬかわ千晴ちはる 内田うちだ知樹ともき）

「慣なれれば簡単かんたんに利益りえき」勧すすめられて…

AIと冒頭ぼうとうのやりとりをしたのは、岡山おかやま市しに住すむ41歳さいの男性だんせいです。

男性だんせいは、ことし1月つき、マッチングアプリで1人にんの女性じょせいからアプローチを受うけました。

隣県りんけんに住すんでいるというプロフィールに親近しんきん感かんを持もった男性だんせいは、LINEでやりとりを開始かいし。

1週間しゅうかんほどたったとき、女性じょせいからあるサイトへの登録とうろくを勧すすめられました。

男性だんせい

「身の上みのうえ話ばなしを聞きいているときのことでした。『コロナ禍かで売り上うりあげが落おちたときに、赤字あかじを補ほてんするために始はじめたショッピングサイトがある。慣なれれば簡単かんたんに利益りえきが出でるので、副業ふくぎょうとして出店しゅってんしてみないか』と誘さそわれました。出店しゅってん者しゃがショッピングサイトの運営うんえい側がわの仲介ちゅうかいで、客きゃくの注文ちゅうもんに応おうじて商品しょうひんを販売はんばいするサイトだと説明せつめいされました」

誘さそわれたのは、シンガポールの会社かいしゃが運営うんえいする、個人こじんでも商品しょうひんを販売はんばいできるショッピングサイトのサービスへの出店しゅってん。

そのサイトは、検索けんさくしてみると、東南アジアとうなんあじあを中心ちゅうしんに6つの国くにと地域ちいきで人気にんきのECサイトでした。

男性だんせいは、女性じょせいからLINEで送おくられてきた、URLにアクセスし、疑うたがうことなく、出店しゅってんの手続てつづきのために、住所じゅうしょや口座こうざ番号ばんごうを登録とうろくしました。

しかし送おくられてきたURLは正規せいきのものではなく、偽にせサイトのものだったのです。

470万まん円えんを失うしなった

男性だんせいが出店しゅってん者しゃとして登録とうろくすると、すぐにスマートフォンの注文ちゅうもんが入はいりました。

女性じょせいからは、販売はんばいする商品しょうひんはサイトの運営うんえい側がわが卸業者おろしぎょうしゃから購入こうにゅうするので、卸値おろしねを先さきに負担ふたんするだけで卸値おろしねと販売はんばい価格かかくの差額さがくが利益りえきになると、教おしえられていました。

スマホの注文ちゅうもんに対にたいして、男性だんせいが、卸値おろしねのおよそ9万まん円えんを振り込ふりこんだところ1万まん円えんほどの利益りえきが出でて、本当ほんとうに儲もうかるんだと安心あんしんしたといいます。

その後そのご、男性だんせいのもとには、次々つぎつぎに注文ちゅうもんが入はいりました。

注文ちゅうもんは次第しだいに高額こうがくになっていき、高こう機能きのうのパソコンと机つくえやいすがセットになった商品しょうひんもありました。

求もとめられるまま、あわせて300万まん円えん以上いじょう支払しはらいましたが、利益りえきを受け取うけとることができたのは、最初さいしょの1回かいだけでした。

男性だんせい

「1度目どめはうまく行いったので、しばらく待まっていれば、2回かい目め以降いこうの利益りえきも受け取うけとれるものだと思おもっていました。稼かせげるうちに稼かせいでしまおうという思おもいもありましたが、大金たいきんを振り込ふりこんでしまったので、あとに引ひけなくなっていました」

2回かい目め以降いこうの利益りえきが受け取うけとれないことに不安ふあんを感かんじ始はじめたとき、350万まん円えんの高級こうきゅう時計とけいの注文ちゅうもんが入はいりましたが、すでに支払しはらいが難むずかしい状況じょうきょうになっていました。

男性だんせいはサイト内ないに設もうけられたチャットで注文ちゅうもんのキャンセルを求もとめましたが認みとめられず、女性じょせいからLINEで「一部いちぶだけでも」と促うながされ、さらに100万まん円えんを支払しはらってしまったといいます。

また、男性だんせいは、サイトのチャットでこれまでに出でているはずの利益りえきを渡わたすよう運営うんえい側がわに求もとめました。

すると…

「店舗てんぽの信用しんようが落おちている。信用しんようスコアを補充ほじゅうしたあと出金しゅっきん業務ぎょうむを行おこなわなければならない」

「親愛しんあいなる店主てんしゅ 20000ドル補充ほじゅう店舗てんぽ信用しんよう分ぶんはいつ支払しはらうことができますか？」

こんなメッセージが送おくられてきました。さらに追加ついかで日本にっぽん円えんでおよそ300万まん円えんを支払しはらうよう求もとめてきたのです。

男性だんせいは、警察けいさつに相談そうだんしたとメッセージを送おくりましたが、運営うんえい側がわからは「警察けいさつはお金おかねを支払しはらえるのですか？」と、あくまで支払しはらいを求もとめる答こたえが返かえってきました。

女性じょせいと知り合しりあってから、警察けいさつに相談そうだんするまで2週間しゅうかんほど。この間このかんに支払しはらったのは合あわせて470万まん円えんに上のぼります。

男性だんせい

「被害ひがいにあったかもしれないと気きづいたときは、ことばに出でないというか、なんとかならないかと思おもいました。ほかの人ひとから商品しょうひんを購入こうにゅうしようとしたらできず、このサイトは偽にせものだとはっきりわかりました。今いまは支払しはらったお金おかねは戻もどってこないと思おもっています。お金おかねの話はなしが出でた時点じてんで、周囲しゅういに相談そうだんして、少すこしでも怪あやしいなと思おもえばやめられたのではないかと思おもいます」

NHKの取材しゅざいに対にたいして正規せいきのサイトを運営うんえいする会社かいしゃ側がわは、このサイトは偽にせサイトだとした上うえで、法的ほうてき措置そちを検討けんとうしているとしています。

チャットの中身なかみ 詳くわしく分析ぶんせきすると…

男性だんせいが運営うんえい側がわだと思おもってチャットしていた相手あいて。

実じつは、AIだったことがわかりました。

この偽にせサイトについて、セキュリティ－会社かいしゃに、詳くわしい分析ぶんせきを依頼いらいしたところ、チャットサービスはAIが動うごかしていたことが判明はんめいしました。

AIは20言語げんごに対応たいおう。詐欺さぎを仕掛しかけているとみられるサイト運営うんえい者しゃが意図いとする応答おうとうを事前じぜんに学習がくしゅうし、質問しつもんに対にたいして自動じどう的てきに文章ぶんしょうで回答かいとうする仕組しくみになっていました。

セキィリティー会社かいしゃによりますと、このようなAIのチャットサービスを組み込くみこんだ巧妙こうみょうな詐欺さぎサイトはこれまでは見みられなかったといいます。

AIが回答かいとうした、過去かこの履歴りれきを解析かいせきすると、男性だんせい以外いがいにも過去かこにこのチャットサービスで日本語にほんごでやりとりしていた痕跡こんせきが見みつかりました。

（質問しつもん）「どうすればいいですか」

（AI）「信用しんようポイントを4ポイント回復かいふくさせることが必要ひつようです。2万まんドルの支払しはらいをしてください」

さらに調しらべていくと、このAIチャットサービスを組み込くみこんだ、別べつのサイトが十じゅう数すう件けん、見みつかりました。

アメリカの通販つうはんサイトなど海外かいがいのECサイトをかたっているものが中心ちゅうしんでしたが、中なかには日本にっぽんの楽天らくてんのショッピングサイトをかたるものもありました。

いずれも構造こうぞうがよく似にていて同おなじような方法ほうほうで作つくられたとみられ、出品しゅっぴん者しゃ向むけのページが作つくり込こまれていることなどから、同様どうようの詐欺さぎに使つかわれていると考かんがえられるということです。

セキュリティ－会社かいしゃ マクニカ 掛かけ谷たに勇治ゆうじさん

「新あたらしい手口てぐちの偽にせサイトが出でてきたと言いっていいと思おもいます。AIが詐欺さぎの片棒かたぼうをかつがされているというか、詐欺さぎ師しの立場たちばに立たった返答へんとうを返かえしてくるところに非常ひじょうに驚おどろきました。AIが簡単かんたんに実装じっそうできるようになったことで日本語にほんごが不ふ自然しぜんなどの特徴とくちょうが減へると、偽にせサイトを見抜みぬくのがさらに難むずかしくなるかもしれません」。

AI技術ぎじゅつ悪用あくよう 音声おんせいや動画どうがでも被害ひがい

AIの技術ぎじゅつを悪用あくようした詐欺さぎなどのサイバー犯罪はんざいは、世界せかいで懸念けねんが高たかまっています。本物ほんものと見分みわけがつかないほど精巧せいこうな偽にせの音声おんせいや動画どうがを使つかってお金おかねをだましとられるなどの被害ひがいもでています。

アメリカでは去年きょねん、「誘拐ゆうかいされた、助たすけて」と泣なきながら訴うったえる娘むすめの声こえを何者なにものかがAIで合成ごうせいし、母親ははおやに電話でんわで聞きかせて身代金みのしろきんを要求ようきゅうする事件じけんがありました。

SNSで音声おんせいを見みつけ、住所じゅうしょや電話でんわ番号ばんごう、家族かぞく関係かんけいまで特定とくていした上うえで犯行はんこうに及およんだとみられています。

またことしに入はいってから、香港ほんこんの企業きぎょうの会計かいけい担当たんとう者しゃが、上司じょうしや同僚どうりょうのディープフェイクのビデオ会議かいぎに誘導ゆうどうされ、送金そうきんが必要ひつようだと説明せつめいされ、2億おく香港ドルほんこんどる、日本にっぽん円えんにしておよそ38億おく円えんをだましとられたと伝つたえられています。

だまされないためには

AIの技術ぎじゅつを悪用あくようして進化しんかする詐欺さぎの手口てぐちですが、実際じっさいに、悪意あくいをもってだまそうとしてくるのは、人間にんげんです。

今回こんかいのケースでも、人間にんげんがマッチングアプリやLINEなど、さまざまなコミュニケーション手段しゅだんで甘あまい言葉ことばで巧たくみに勧誘かんゆうしていました。

だまされないためには、まずは、これまでの詐欺さぎへの対応たいおうと同おなじように、落ち着おちついて確認かくにんすることが重要じゅうようだと専門せんもん家かは指摘してきします。

▽「必かならずもうかる」などお金おかねの話はなしが出でてきた時ときはまず疑うたがう

今回こんかいのケースで見みられた、副業ふくぎょうを呼よびかける詐欺さぎについて、国民こくみん生活せいかつセンターでは「『必かならず』『確実かくじつ』はウソ」や「『楽たのして』『簡単かんたん』はウソ」と注意ちゅういを呼よびかけています。

▽利用りよう者しゃの目線めせんに立たつ

今回こんかい見みつかった偽にせサイトでは、商品しょうひんを選択せんたくして購入こうにゅうしようとしても決済けっさいができないなど、細こまかい点てんを見みてみると不自然ふしぜんな作つくりになっていました。

▽実際じっさいに電話でんわなどで確認かくにん

サイトの連絡れんらく先さきや電話でんわ番号ばんごうは空欄くうらんでした。実際じっさいに商品しょうひんを購入こうにゅうする利用りよう者しゃの立場たちばにたって、ネットでの評判ひょうばんを確認かくにんするとともに、チャットでのやりとりだけでなく、実際じっさいに電話でんわなどでも確認かくにんすることなども大切たいせつです。

▽消費しょうひ生活せいかつセンターや警察けいさつに相談そうだん

少すこしでも不審ふしんに思おもったら、近ちかくの消費しょうひ生活せいかつセンターにつながる消費しょうひ者しゃホットライン「188」や警察けいさつに相談そうだんしましょう。

信頼しんらいしている友人ゆうじんをよそおったAIから連絡れんらくが来きて、あなたに副業ふくぎょうや投資とうし話ばなしを持もちかけてくる。

たとえ、そんな日ひが来きたとしても、一いち呼吸こきゅうおいて、いったん冷静れいせいになる。

この心構こころがまえが、なにより大切たいせつです。